神鳥の卵 第24 話 |
「たっ大変だ!!」 まだ太陽も登りきらない早朝だというのに、大声で叫びながら寝室から飛び出してきたスザクを睨みつけた。視線で殺せるなら眼の前の人間は息絶えているだろう。そう思わせるような不愉快な表情のC.C.にかまうことなく、スザクは部屋の電気をつけた。 「おい!」 突然眩しくなり、目がくらむ。 なんなんだ一体。今日はスザクがルルーシュと休みたい!と騒いだため、たまには変わってやるかと、居間に置かれたベッド・ソファーで寝やったというのに。ふあーと、大きなあくびをし、スザクを見て・・・目を丸くした。 「おまえ、それは・・・」 「だから!大変だって言ってるだろ!!」 完全に取り乱したスザクが両手に抱えているもの。 それは、たまごだった。 真っ白い、たまご。 両手で抱えなければならない大きさの、卵だ。 「・・・まさか、ルルーシュか?」 「他に誰がいるんだ!」 スザクは怒鳴りつけながら、C.C.が寝ていたソファー・ベッドに腰を下ろした。C.C.に当たったところで意味はないとスザクはわかっている。だが、この不安を、恐怖をどうにかしたくて、ついC.C.に怒鳴っているのだ。これは甘え。C.C.ならこの程度のこと流してくれるという甘え。そしてC.C.はその甘えに応えて、スザクの態度に対しては何も言わず、卵に意識を向けた。 つんつんとつついた後、手のひらをあて、撫でてみる。 さらりとした手触りが心地良い。 「温かいな」 硬さも普通の卵と変わらない。だが、とても温かい。子供の体温並みだ。この温かさは、スザクが抱えていたからとは思えない。中にいるのか、この卵がルルーシュそのものなのか。 「どういうこと!?ルルーシュ、どうなるの??」 「私に答えられるとでも?」 「君以外に、誰が答えられるんだ!?」 完全に動揺しているスザクは、まるで責めるように、それでいて縋るように尋ねた。失うのが怖い、そんな表情だ。ルルーシュは、卵の状態でこの世界に戻ってきた。そしてこの世界で孵化した。卵に戻るということは、この世界から消えるということかもしれない。だからスザクは慌てているのだ。 「割ろう。そうだ、割ればいいんだ」 「待て」 「だって、早く出さなきゃ!」 消えてしまうかもしれない。 消える前に、ここから出せばいいんだ。 らしくなく混乱しているスザクは、卵を頭上に高く掲げた。力いっぱい地面に叩きつけようとしてい姿に、C.C.は慌てた。 「馬鹿かおまえは!そんな事をすれば死ぬぞ!」 卵は割れるが、そんな高さから勢いよく地面に叩きつけられれば、ルルーシュは死んでしまう。割るならこつこつと、外から衝撃を徐々に与えてヒビを入れるべきだ。 「邪魔をするな!」 「また殺す気か!ルルーシュを!!」 スザクはビクリと体を震わせ動きを止めた。 父親を殺した時以上に、ルルーシュを殺したことはスザクの中で大きなトラウマとなっていた。今は死んだはずのルルーシュが戻ったことで忘れてしまっているようだが、その手でルルーシュを刺殺したのはお前なんだと突きつければ、顔を青ざめさせた。おかげで頭の血がいくらか引いたようだった。 「・・・でも、だけど!」 「だけどじゃな・・・まて枢木スザク。卵を下ろせ。ベッドの上に、そっとだ」 声の変化に、スザクは瞬いた。C.C.の視線は卵から動かず、そこで何かが起きているのだと、嫌が負うにも気付かされた。ゴクリと、固唾をのんだ。手が、震える。消えるのか?いや、でもこの手にはまだ卵がある。いいから下ろせと急かすC.C.に言われるまま、スザクはゆっくり腕をおろし、ベッドの上に卵を置いた。そして、視界に戻ってきた卵の変化をようやく目にする。 「ヒビが・・・」 白い卵にヒビが入り、それが徐々に広がっていた。 「・・・そうか、そういうことか」 C.C.はなにかに気づいたように頷いた。 「どういうこと?」 「前々から気にはなっていたんだ。ルルーシュが戻ってからかなりの時間が経つというのに・・・ルルーシュは成長しなかった」 ここに来たときと同じ姿のまま、ルルーシュはいた。 普通ならば、これだけの時間が経てば成長する。 子供の成長は早いのだから、同じままでいるはずがない。 だが、ルルーシュは変わらない。 歩けるようになったり、食事が替わったりしたのは、ルルーシュが努力しただけで、あれは成長によるものではない。 もしかしたら一生このままなのでは?と、セシルが心配していたのをスザクは知らないだろう。 今はいい。皆がいる。だが、人ではなくなったルルーシュがどれだけ生きるかわからない。皆が老衰した後も今のままかもしれない。 不死であるC.C.は共にいれるが、年を取らないC.C.以上に、成長しない赤ん坊のルルーシュは目立つことになる。 まだまだ先の話ではあるが、そんな不安はあったのだ。 だが。 「どういうことだ?C.C.!」 もったいぶらずに答えろ。 「まあ見て色。おそらく・・・」 卵の殻がぴしりと音を立てたので、C.C.は口を閉ざした。 欠片が、音を立てて剥がれ落ちる。 ごくりと、スザクが固唾を飲んだのがわかった。 ガラスが割れるような硬質な音が辺りに響き渡り、卵の中が顕になる。前にも見た光の渦がそこにあった。 C.C.は初めて見るそれに、眉を寄せる。 「ルルーシュ、ルルーシュ!」 スザクが光の中に呼びかけると、小さな手が伸びてきた。あのときと同じだ。だがあのときと、いや、昨日とは違う。 「・・・え?」 動揺したスザクを横目に、C.C.はその手をとった。 その瞬間、辺りをまばゆい光が包みこんだ。 硬質な音が響き渡ると同時に卵の殻が一気にひび割れ砕け散り、キラキラと僅かな残照を残し、照明の光に溶けて消えた。 「やはりな」 「え・・・これって」 そこに居たのはルルーシュだ。 だが、今までとは違う。 「だいたい、6歳ぐらいか」 成長していた。 今までの赤ん坊の姿とは異なる幼児の姿で、ルルーシュはすやすやと小さな寝息を立てていた。 |